2014年5月4日日曜日

本屋と旅について②



先週の木曜日に開催した嶋浩一郎さんとのトークイベントは満員御礼、
とても楽しい時間となった。会話の合い間にはさんでくる、しまさんトリビア
面白く、お客さんのメモ率いつもより高め。ケトルをパラパラとめくっている時の
ような、雑誌的テンポのよさが時計を見ながらの進行を妨げる。

2月にB&Bで開催した内沼晋太郎さんとのトークでは、内沼さんが1時間で
きっちり間を取り、後半はお客さんとの質疑応答という2部構成にされていて、
今回はそれを真似てみようかと思ったのだが、ついついトークに引き込まれてしまった。

打ち上げは北酒場。自己紹介をしながら、皆ここぞとばかり、“新潟トリビア”を
披露する。嶋さんはそれをスマホの留守電に吹き込んでいる。

酒を飲みながらも、時折席を立ち、棚を見て廻る嶋さんは好奇心の人だ。
それは本屋として、かなり重要な要素である。早朝や夜中に、B&Bの棚を
ひとりでいじることが多いのだという。

2次会の「大倉酒店」は北書店のイベント打ち上げの定番。角打ちではない、
座って飲める酒屋さんだ。今回のケトルには北書店とあわせてご登場いただいた。
ということで、やはりここはお連れしなくては。カレーライスの素朴な手描きイラストが
お品書きになっているのを見て、嶋さんのテンションがちょっと上がる。

後日嶋さんよりお礼メール。北酒場も大倉酒店も楽しんでくださったようでなにより。
新潟のあとずっと出張続きで、数日は落ち着くことがなかったそうだ。
ケトルの取材でお世話になったライターのFさん、カメラマンのMさんも、
皆さん多忙の合い間を縫って北書店まで来てくださったことにあらためて感謝。

皆、旅を続けているのだ。


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めったにないことなので、こちらが旅に出た話も書いておきたい。

先週の土曜日、今年で10周年となる不忍ブックストリートのひとコマ、
「全国ブックイベント・シンポジウム」にて、主催の南陀楼綾繁(ナンダロウ・アヤシゲ)さん
司会のもと、各地で精力的に活動されている方々に混ざってお話させていただいた。
会場ロビーでの待ち合わせ、皆さん初顔合わせだ(多分)。

木村敦子さん(モリブロ/岩手
阿部史枝さん・勝邦義さん(石巻まちの本棚/宮城
吉田絵美さん(うだつマルシェ/徳島
佐藤雄一 (ニイガタブックライト/新潟)


ランチタイムの食堂で軽い打ち合わせをする。木村敦子さんが開口一番、生ビールを
オーダーしたのがカッコよかった。食事を済ませて会場に戻ってみたら、往来堂書店
笈入店長が事務方に徹しておられた。不忍の歴史とスケールの大きさを感じずにはいられない。

一昨日の嶋さんトークにも来てくれた「HAB」の編集・発行人、松井さんは連続参加。HABは、
 “人と本屋”の略Human And Bookstore)。創刊号は新潟特集で、ありがたいことに、この会場
でもよく売れた。

「ブックイベント」と、ひとくちにいってもアプローチの仕方は様々で、皆の話が興味深い。
新潟代表北書店は、「日々の商いとして、本が売れなければどうにもならない」という、
いつものスタンスで話す。「君はどこに出しても座持ちがいいので重宝だ」と、打ち上げの
居酒屋お座敷で、ナンダロウおじさんにお褒めの(?)言葉をいただく。この席から、
“物書き”木村衣有子さんも合流。この人に会うといつも毒舌大会になる(超楽しい)。


明るいうちから酒を飲むことに馴れていないがここは谷根千。散会後、宿へと向かう
道すがら、先頃発売になったばかりの、人とお店と街の物語が立ち昇るガイド本、
谷根千ちいさなお店散歩」(WAVE出版)の著者、南陀楼綾繁その人の解説を聞きながら
「ご当地」をブラブラ。なんという贅沢。「荷物重いだろうから荷台に乗せなよ」と、マイカーを
引いてきた優しいナンダロウさん。おしゃれとか一切関係ない普通の黒い自転車に、
「そうこなくっちゃ」とひとりで納得。いつもはゲストとして新潟に招いている人の日常が、
時折垣間見えるのもディープな楽しみだ。

このほろ酔い散歩がとにかくよかった。へび道~よみせ通り~谷中ぎんざ~夕やけだんだん。
“夕やけだんだん” 最高。だんだんを登ると現れる、古書信天翁(あほうどり)の佇まい。
誰もが羨むロケーションだ。思わず「家賃は?」なんて無粋な質問をしてしまい反省。
「谷根千ちいさなお店散歩 発売記念写真展」も開催されていた。旅に出る動機として、
いつか夕暮れ時にこの店に再訪する、というのはありだな、と思う。

よみせ通りまで戻り、翌日のイベント会場を確認。そのお隣にある、ビアパブイシイ
かるく2次会。満員で外にもベンチがある。ひとり旅なら完全スルーだが、ナンダロウさんと
一緒なのでリラックスして飲む。開店1周年前夜のようで、店全体がとてもいい雰囲気。
明日に備えて早めに解散。過去にもあったのだが、「ナンダロウ邸が見たい!」という
こちらの要望は却下された。こう頑なに毎回拒否られると、逆になんとしても突撃したく
なるが、おとなしく宿に戻り爆睡。朝まで。


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2日目は「出張北書店」。古書ほうろうさんに事前に送っておいたダンボール4箱を取りに
行く。ボランティアスタッフが数名ずつ、各所に配置されているようで、運搬や設営など
ご協力いただきとても助かった。本日の会場は「戸野廣浩司記念劇場(トノゲキ)」。
一箱の出店者さんも一緒なので本はまあまあそこそこ。LIFE-mag.HABこういう
場では威力を発揮する「石橋毅史 本屋な日々北書店特集(2部セット300円)など、
新潟以外では買いにくいものを中心に。あ、もちろん「ケトル」も。
その他は出張イベントの定番「菌屋」グッズや、「ツバメコーヒー」各種、ご近所カフェ
マリールゥ」のパンケーキ等々・・食品強し、だ。


イベントMAPを見ると、根津から谷中、千駄木まで、あちこちに一箱の出店があり、
新潟とは(おそらく他所の地域とも)随分違う趣向で行なわれている。街の回遊性が
存分に活かされた、谷根千エリアだからこそ実現可能な方法かもしれない。これだけ
広範囲に散っているんだから、わりと緩やかな出足かも、という見立ては大きく外れ、
開始と同時にたくさんのお客さんが来てくれた。知り合いの版元営業さんや編者者さんも
多く、会話が楽しい。

出店の依頼とともに、仰せつかっていたもうひとつ。今日の一箱のなかから「北書店賞」を
選ぶのだ。お昼過ぎ、少し落ち着いてきたタイミングを見計らって、ボランティアスタッフさんに
店番を託し、トノゲキをでる。しかしすでに自分のなかで北書店賞はほぼ決定していた。
同じ会場で出店されていた『嫌記箱』さん。箱を見るなり数冊買っちゃった、というだけの
理由だが、ファーストインパクトは大事だ。器としての箱のそっけなさも魅力的だった。

箱の主はなんと「出版業界最底辺日記 ─エロ漫画編集者「嫌われ者の記」(ちくま文庫)の著者、
塩山芳明さんだった(編集はナンダロウさん!)。ご本人には後ほど挨拶させていただいたが、
このときは代理の人が店番をされていた。かりだされた感満載の可笑しさが好印象だった
その彼は新潟のご出身で、これも嬉しい出会いだった。

目星はつけたがそれはそれ。やはりイベント全体の様子を楽しまなくては。ほうろうさんを
スタート地点に、旧安田邸、千駄木の郷、羽鳥書店等をまわる。羽鳥書店では写真展が
開催されていた。団子坂を下り、不忍通りに出ると、人ごみはさらに増す。往来堂から先へ
行くにはどう考えても時間が足りず泣く泣く断念。2年前に行ったきりの「タナカホンヤ」を
見たかった。往来堂を左に折れ、昨夜歩いた「へび道」の入り口あたり、「旅ベーグル」を
目指す。“MJ”こと、マツジュンさんに会いたかったのだ。売切御礼、カーテンがかかった店の
扉をかまわず開けると、MJはベーグルをひとつ残して待っていてくれた。時間を気にしつつ
少しだけ話す。名残惜しいが再会を約束し別れる。この時点で、トノゲキを出てからすでに
小1時間が経過しているので足早に戻る。お店や一箱を、ひとつひとつじっくり見ていると、
丸1日かけても時間が足りない感じだ。

そろそろトノゲキが見えてくるあたりで、向こうから石橋毅史さんが歩いてきた。こちらが
出かけたあと、入れ違いで北書店ブースを冷やかしに来てくれたのだ。一服できるスポットを
探しつつ近況報告。さすがに戻らねばと、石橋さんと歩いていたら「野宿屋郎」のKさんに遭遇。
みんなでブースに戻る。キャビネのMさんとも再会。東京・・楽しすぎだって。

留守を守ってくださったスタッフさんにお礼を言い、再び売り子になる。本も雑貨も、1日通して
良く売れた。本当にありがたいことだ。お買い上げいただいた皆様に感謝感謝。


まもなくイベント終了。撤収中、外へ出ると、私が東京での出張販売をするときにはいつも
手伝ってくれる、フリー編集者で “東京在住の北書店バイト” Aさんにバッタリ会う。
前日のシンポジウムでご一緒した、「うだつ~」の吉田さんとはお友達だそうで、
別会場の「出張うだつマルシェ」に顔を見に出かけた帰りとのこと。
「言ってくれれば手伝うのに、なんで連絡をよこさないのだ」とAさんに叱られる。


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片付けも終わり、表彰式までの1時間、石橋さんともう少し話そうと、手頃な喫茶店を探すも
これが意外と難しい。しばらく歩いて、ガッチリ隔離された喫煙室完備のお店を見つけ、ようやく
落ち着いて話し込む。

北書店もそうだが、全国各地で奮闘しておられる本屋の皆さんの影で、よくよく考えたら、この
石橋さんだって大変だ。「新文化」という組織を離れ、フリーになって本屋(或いは本屋的な人)を
取材しているというのも、新刊屋を経営していくことと同じくらい綱渡りだ。だけどもなんとか
踏ん張ろうよと、結局は日々の商いに話は流れる。ブックイベントに参加した2日間の終わりに、
いい時間を持てた。


戻ってみると、トノゲキはすっかり表彰式の会場仕様になっていた。指定の席に座り開始を
待つ。昨年の秋、Book! Book! AIZU」でご一緒した、「わめぞ」代表、向井透史さんも
いらっしゃる。ナンダロウさんとタナカホンヤさんの進行で表彰式が始まる。

プレゼンテーターがそれぞれに挨拶。不忍ブックストリートの10年をしきりに褒める向井さんと、
「今日の君変だよ。どうしたの?」と、こそばゆい感じになっているナンダロウさん。名場面だ。

北書店賞を渡すとき、やはり受け取るのは、かりだされてきた新潟出身のSさんだったのが
面白い。と同時に、何だか塩山さんに賞をあげるだなんて、かえって失礼ではないかと
思ってしまった。賞品は粗品ともうひとつある。後日発表できるかどうか・・とにかく、ひと目
見た時の印象は覆らず「嫌記箱」さんを選んだ。参加してみてどうだったかと聞かれたので、

「自分はとにかく出不精で、商売柄もあり、ほとんど旅に出かけることがなく、いざ出かけ
てもその土地になかなか馴染めず違和感を感じまくる性格なのだが、今日こうやって楽しく
過ごせたのは、街の魅力はもちろんだけど、要所要所に本があるからで、自分がそこに
いることを許されているような気がしたんじゃないかな」

という話をした。


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全日程が終了し、最終の上越新幹線の時刻から逆算して少しだけ打ち上げに顔を出す。
これだけの大所帯だと、入れるお店も限られるから段取りが大変だ。70人以上の貸切。
だけど知っている顔が少ないなあと思ったら、ここに集まったのはボランティアスタッフの
皆さんだった。出店者さんも含めての打ち上げは無理なので、別々に開催するそうだ。
それだけ大きな規模のイベントなのだと、あらためて思う。

ナンダロウさんの音頭で宴会が始まる。どこかは聞かなかったが、出版社の電子書籍
部門で働く台湾の女性と同席する。近所にお住まいとのこと。本屋の資金繰りの話に
身を乗り出すと、「また君はそういう話になるとイキイキするね」とナンダロウおじさん。
はいはい。毎日大変です。

たしかに毎日大変だけれど、この東京での2日間を振り返っただけでも、これだけ
たくさんの人たちと、楽しい時間を過ごしていることもまた事実だ。それは遡れば、
ナンダロウさんが3年半前に、北書店という「ちいさなお店」を訪ねてきた日にたどりつく。


新幹線の時刻が迫ってきたので、打ち上げ会場の焼き鳥屋を後にする。イベントが
無事終了した安堵感からか、前日よりもリラックスして飲んでいるナンダロウさんが
店の外まで出てきて見送ってくれた。

西日暮里駅まで歩きながら、県外からのお客様を受け入れたり、こちらが出かけて
いったりした、この何日かのことを考えた。どこでも買えて、どこでも同じ価格の本を
並べているだけの毎日からうまれた “ここだけのもの” というか。



長々書いておいて、締める言葉が浮かばないというのもどうかと思うが、もうひとり
ご登場いただくことにする。ニイガタブックライトや、他の出張イベントでも何度となく
お世話にっている石井ゆかりさんのメールだ。

2年前、それこそイベントでご一緒したあとに、「なんで新刊売ってるだけで、こんなご縁が
出来るんだろうね」的な内容のメールを、お礼とともに送ったら返ってきた長文。


「これ、俺だけが読むっていうのはもったいないので、いつかブログにのせていいですか?」
と返したら、

「いいですけど、“そういって結局書かない” に、100円賭けます 笑」

と返ってきたのであった。(石井さんすいません。今さらですけどそのときが来ました)


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本って、音譜というかひとつの音みたいなもので、
世界中の本を、一生でたった一冊だけしか読まない、
ということってないと思うんです。


本は、他の本とのむすびつきで初めてわかることってあって、
ひとつひとつが断絶しているわけではない。今、ネット書店は
それをぶつぶつ断絶して売っているけど、本を買って読むという
行為は、書店で音楽を聴き、自分の家で新たに自分だけの音楽を作る、
みたいなものではないかと思ってるんです。

だとすれば、書店はライブハウスみたいなもので、ならば

「そこでしか聴けない音」があるわけで、書店に行くために距離を超えていく、
という「旅」が成立するんじゃないかと思ってるんです、三蔵法師みたいに(笑
ひとつひとつの音は同じ「ドレミ」でも、その並べ方や音の出し方で別々の
音楽ができあがるわけですよね。



中略(ちょい過激)


本屋さんは、他のお店もそうですけれども
「その土地のひとだけが知っていればよい」というものではなくて、
「その土地を訪れる可能性のある人=全ての人に知ってもらう価値はある」
ということになってるじゃないかと思います。新潟旅行をする人は、

北書店に行くべきだと私は思ってるんです。旅行って、神社仏閣と
宿泊と食事だけじゃないだろ、と思うわけです。
そこには、そこでしか聴けない音楽のような「本棚」があるのです。


北書店には、あまりハッキリは見えないけれども、細い物語の糸みたいな
ものがあって、それが距離を超えていろんな場所につながっていて、
これってとても「あるべき姿」だと思うのです。


そういう物語の糸があれば、人はその物語をたぐって、
知らない場所を「知っている場所」に変えることができるんだと思います。





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あっという間に5月ですね。

来月はニイガタブックライトvol 7・一箱古本市in現代市(学校町通)が開催されます。
っていうか開催します。詳細はまた後日。

ここまで気長に読んでくださった人は何人いるかな?なにか差し上げたい気分です。


ではではまた近日。
旅はまだまだ続きます。